2021/5/17に高配当銘柄で人気のAT&T(T)が、傘下のWarner MediaをスピンオフしてDiscovery(DISCA)との統合を発表しました。
- スピンオフとは?
- 親会社が、子会社や事業部門を独立させて新会社を作ることです。その時、親会社の株主には保有株数に応じて、新会社の株が分配されます。
100%子会社をスピンオフする場合「株式分配」、事業部門をスピンオフする場合「分割型分割」といいます。 - AT&Tはいつスピンオフするのか
- 2022/4/11にスピンオフしました。
(2022/4/8情報)証券会社では権利落ち2022/4/11と案内あり。
(2022/3/25情報)株式配当の権利基準日は2022/4/5、株式配当は4月に予定。
The record date for the stock dividend is the close of business on April 5, 2022.
On the closing date of the transaction, anticipated to be in April, AT&T shareholders will receive, on a tax-free basis, an estimated 0.24 shares of stock in Warner Bros. Discovery, Inc. (WBD) for each share of AT&T common stock.
(引用:AT&T Announces Details for Completion of Spin-Off Ahead of Close of WarnerMedia Transaction)
(2021/5/17情報)規制当局とDiscoveryの株主の承認を経て2022年半ばに完了予定となっています。
“The transaction is anticipated to close in mid-2022, subject to approval by Discovery shareholders and customary closing conditions, including receipt of regulatory approvals.”
(引用:AT&T’s WarnerMedia and Discovery, Inc. Creating Standalone Company by Combining Operations to Form New Global Leader in Entertainment)
オサカナもAT&Tを保有しており、新会社の株が分配されてラッキーと思いましたが、実は非常に厄介なイベントであることが分かってきました。
というのも、元会社を特定口座(証券口座が損益計算管理してくれる)やNISA口座(非課税枠の口座)で保有していても、分配された新会社の株は一般口座(自分で損益計算しなくてはならない)に入庫されたり、元会社までも一般口座化するところもあります。
そのため、煩わしい一般口座の管理から逃れるため、スピンオフ前にAT&Tの株を売却を考える人も少なくないようです。
では、そもそも米国株のスピンオフに対応した証券会社があれば悩まなくて済む、ということで、証券会社やルールを調査してみました。
※ここでいう「スピンオフに対応」は親会社と同じ管理口座になり、取得価額が計算されることを指します。
売却するとなるとタイミングもあるし、ホールドし続けたい
米国株「スピンオフ」に対応の証券会社
結論を言うと対応している証券会社はありませんでした。
調べてみると、対応できないのは、日本の税制でのスピンオフの扱いが根本にありそうです。
考察は続く
対応している証券会社があれば、
株式を入出庫して証券会社を移動させる手を考えて調査しましたが、残念ながら米国株のスピンオフに対応した証券会社は見つかりませんでした。
※元:親会社、新:独立した新会社を指す。特定口座に保持するの場合の情報。
証券会社 | スピンオフ | 入庫 | 出庫 | 備考 |
---|---|---|---|---|
SBI証券 | × | 無料 | 無料 | 元新ともに一般口座化 ※投資信託の出庫のみ3,300円 |
楽天証券 | × | 無料 | 無料 | |
マネックス証券 | × | 無料 | 3,300円 | 元は継続、新は一般口座 |
PayPay証券 | × | × | × | 元は継続、新は売却 |
株式会社DMM.com証券 | × | 無料 | 無料 | 元新ともに一般口座化 |
岡三オンライン証券 | 不明 | 記載ページ見つけられず | ||
野村證券 | 不明 | 記載ページ見つけられず | ||
松井証券 | − | − | − | 米国株の扱いなし (2022/2より開始予定) |
GMOクリック証券 | − | − | − | 米国株の扱いなし |
SBIネオモバイル証券 | − | − | − | 米国株の扱いなし |
日興フロッギー | − | − | − | 米国株の扱いなし |
LINE証券 | − | − | − | 米国株の扱いなし |
au株コム証券 | − | − | − | 米国株の扱いなし |
CONNECT | − | − | − | 米国株の扱いなし |
ちなみにスピンオフ銘柄を扱わない場合や1株未満の端数について、株式配当ではなく現金配当になるのは、どの証券会社も同じようです。
国内株式のスピンオフ対応状況
国内株式に対してはスピンオフを考慮した税制が存在し、対応できる余地があることが分かってきました。
実際、コシダカホールディングス(2157)のスピンオフでは、特定口座・NISA口座のまま、子会社のカーブスホールディングスの株式付与されています。
スピンオフのイメージ
出典「コシダカホールディングス(2157)のスピンオフについて | 楽天証券」より
もとい、日本の税制では、スピンオフによる株の分配はみなし配当所得の扱いとなり、課税対象となります。
みなし配当所得となる根拠は、判例や経済産業省の資料です。
- 日本における裁判の判例(2010年)
米国法人のスピンオフで取得した株式は、配当所得やみなし配当所得に該当するとした高裁の判決、および最高裁が上告を棄却したという判例があります。 - 経済産業省の「スピンオフ」の活用に関する手引(2018年)
米国におけるスピンオフの成功事例を引き合いに、日本においてもスピンオフによる機動的な事業再編を促進するため、税制の改正がされています。
その手引の中で「株主に対するみなし配当課税⇒適格要件を満たせば対象外」という表現があり、スピンオフによる株式分配は「みなし配当」とすることが明確にされています。
このように日本においては
- スピンオフは「みなし配当所得」扱いになる
- 適格要件を満たせば課税の対象外になる
ということが分かります。
そして先に紹介したコシダカホールディングス(2157)のスピンオフは、スピンオフ税制の適格要件を満たしたものでした。
さらにスピンオフ税制の手引きのFAQをみると管理口座が継承すると記載があります。これはコシダカホールディングス(2157)のスピンオフの結果とおりですね。
Q11.上場会社のスピンオフにおいて、特定口座やNISA口座にその上場会社の株式を保管している場合、独立して上場する株式会社の株式はどのように取り扱われますか。
出典:「スピンオフに関するQ&A(一般)⑧|「スピンオフ」の活用に関する手引−経済産業省(PDF)」より
スピンオフを行う株式会社の上場株式を特定口座やNISA口座に保管している場合、スピンオフによって新たに独立して上場する株式会社の株式もその特定口座やNISA口座において保管されることになります。
まだ日本ではスピンオフの実績があまりないみたい
なぜ米国株のスピンオフに対応していないのか?
結論は、国外法人の分割方法が日本のスピンオフ税制の適格要件を満たせないから、だと考えられます。
AT&Tのような国外法人にスピンオフ税制の適格要件が適用されるかどうか以前に日本の税法上で定義されている手続きかどうかの判断があるようです。
この辺は、国税庁HPに掲載されている早稲田大学 小林 敦子教授の研究「国外取引に対する租税法の適用と外国法人の分割に関する諸問題」が参考になります。
国外法人では間接分割という日本の税法にはない分割方法があり、日本の「分割型分割」と実質同様の結果になりますが、定義上のスピンオフには当たらないということになるかと思います。
- 間接分割
- 日本の法制度にはない分割方法。法人が資産の一部を別の法人に移転・株式を取得し、その後、株式を株主に交付する。2つ(以上)の行為からなる。
※日本の分割税制上は、資産の移転から株主への株式交付が1つの行為である必要がある。
証券会社としては、間接分割によるスピンオフでは売買は起きていないにもかかわらず、みなし配当課税だけされることになるため、取り扱いが難しいものと思われます。なので単純に「一般口座にぶち込んで自分で確定申告してね」という仕組みにならざるを得ないのでしょうね。
可能性としては、国外法人であっても分割型分割・株式分配に当たる手続きであれば、みなし配当課税はされず管理口座を継承できることを期待できます。
で、それでいうとAT&Tのスピンオフについては、別の法人Discoveryも関係しており、残念ながら間接分割になることが濃厚です。つまり、みなし配当課税がされるし一般口座行きでしょう。
あとは小林教授の研究の結論では「国外取引を考慮した立法を行うことに努めることが重要であると考える」の締め括られており、今後、その考えを汲んで法改正に繋がることを期待しましょう。
ちなみに過去には日本でも間接分割が認められていたことがあったようです。
特筆すべきは、昭和23年から40年まで、株主に株式を減資の対価として交付するスプリットオフ形式の現行制度では認められていない間接分割が認められていたことである。
出典「国外取引に対する租税法の適用と外国法人の分割に関する諸問題」より
(↓は2021/9/22削除、小林教授の研究をみて)ただ、もし管理口座を継承できない理由が課税有無だけであればNISA口座なら対応の可能性があります。
米法人のスピンオフでは現地課税はなく、またNISA口座では日本でのみなし配当課税がないため、管理口座が継承できそうですよね。
調査してみたものの、日本法人はOKで外国法人はNGとなる理屈が理解できませんでした。
日本の税制が変わるのを待つしかなさそう
AT&Tのスピンオフはどうする?
今の所、ホールドで考えています。
正直なところAT&Tは含み損になっていたり、スピンオフ後は配当利回りが落ちること(1株あたり$2.08→$1.11でほぼ半分)もありますが、次の2点により少なくとも今は手放すつもりはありません。
- AT&Tの事業整理・財務の健全化・本業集中への期待
- NISA口座のため(配当利回りがよい、
スピンオフ対応への期待)
あとは新会社が一般口座でもよいかと考えていることです。
最初に取得価額をはっきりさせておけば、特に困ることはないような気がします。
NISA口座で所有しているので、みなし配当課税がなく、スピンオフ後の新会社の株を売却しなければ、何か手続きがいるわけでもないですし。
※特定口座の保有している場合、スピンオフにより取得した新会社の株はみなし配当課税されます。証券会社の手続きによりますが、源泉徴収はされず(できず)確定申告が必要になると思います。
売却するときには一般口座であるために確定申告をすることになる煩わしさはあります。
まぁオサカナの場合、ブログ収入などで来年には年間20万以上になるだろうと勝手に思っているので、どのみち確定申告をするつもりです。
※年間利益が20万以下では確定申告は不要ですが住民税申告が必要。別の理由で確定申告が必要な場合はその限りではない。
すべての銘柄を一般口座で管理する気にはなれませんが、1銘柄だけならなんとかなりそうですよね。
↓スピンオフした会社の取得価額は按分計算で良さそうですが所轄の税務署に相談した方が良いでしょう。
株式分配により取得した株式等の取得価額|所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)
所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等|所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)
正直おつむがついていけない
まとめ:米国株スピンオフ対応の証券会社はない
今回、米国株のスピンオフに対応した証券会社を見つけて、AT&Tのスピンオフに備えようとおもいましたが、結論は対応している証券会社はありませんでした。
個人的には、記事を書くにあたって調べたことで、別に一般口座でもよいかと思ったのが良い収穫です。
期待としては、NISA口座で持っているので、国内株式のスピンオフ同様、新会社もNISA口座で保持できると嬉しいところ。
AT&Tの配当金は下がりますが、新会社のキャピタルゲインが期待できますからね。(売るつもりはないですが・・・)
新会社もいずれ配当金を期待できそうですよね
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